進出企業インタビューINTERVIEW

競合企業集積地ではなく、長野への移転で事業継続のための
自社の居場所を確保

平和産業株式会社

代表取締役社長 八尾 泰弘 氏

駒ヶ根市

今回インタビューに対応していただいた八尾泰弘様。ざっくばらんな方で、興味深いお話を書ききれないほどたくさんお話してくださいました。

2006年4月駒ヶ根に工場を新設した平和産業様。
長野に工場を新設したことで、愛知県近辺に集積している競合企業と付かず離れずのちょうどいい距離を保ち事業を続けることができているそうです。

Q1

長野県へ進出するまでの経緯

新設の主な理由は増設・増産です。

弊社で使用しているのは旋盤フライスという道具で、この工作機械がコンピューターとくっついてNCや同時5軸になったりと、一気に進歩したのが1980年代の後半です。

弊社は1990年ごろから航空機、飛行機に関わる部品を製造しているのですが、その頃から飛行機の作り方も革新的に変わり、弊社の需要が一気に増えたため工場新設が必要になりました。

需要の波に乗るための増産が必要で、そのための新設候補地で適度な広さと人がいる場所を探していたそうです。

Q2

長野県に進出を考えた理由

元々工場の拡張は計画にありましたが、お客様のいる愛知には川崎重工さんや三菱重工さんといった企業が集積していて車は強いし航空機は強い。

そんなところに僕たちのようなノーブランドの会社が行っても居場所はなく、人の採用で苦労しますし業績にプラスになることはほぼないと考えていました。

そのため工場を作るなら静岡か山梨、と考えていたのですが、ちょうどそのタイミングで偶然、駒ヶ根市の当時の市長さんから企業立地のお誘いをいただいたんです。

それが非常に熱心で、例えば誘致案内の手紙も市長さんの直筆の手書きで頂きましたし、それを見て電話したらすぐに来てくれた。

移転の際、敷地の件などで相談した時もそれに対して全部柔軟な工夫で解決してくれるというか、臨機応変に対応してくださったということもあり、当時の経営者(現:平和産業名誉会長 八尾喬生氏)と相談した結果、この駒ヶ根に工場の新設を決めました。

-八尾社長曰く、当時の市長さんのやり方は非常に人間的で、さらに行動も早く「機を見るに敏(チャンスを掴んだら素早く動くこと)」だったそうです。

Q3

長野県への進出による効果

駒ヶ根市に関してはもともと候補地になく、データベースも全くない状態でしたが、それが逆に良い発見で、人はいるし中京へも近いし環境もいい。

また、駒ケ根市は東京と比べて地面の価格も非常にローコスト。

地面が生み出す付加価値を考えると、東京で製造業を行うにはよほど高付加価値なものを扱うしかない。

ですが、高付加価値な物ってそうそう無いですよね。

そうした中で、我々が事業を続けるためにローコストな地面が必要だったのですが、駒ケ根はまさにうってつけでした。

-実際に長野県に新設してみてから発見したメリットも多数あったそうです。

Q4

地域性や県民性によるプラス面もあるとお聞きしました

人材面で言えば関東地区と比較した場合、長野県の方は長期的な視野に立った「自分の会社」という概念を持ってくれる方が多いと感じています。

そのため、会社への定着率を一つの目的として期待できます。

また、例えばどこの地域でも「未来に対する不安」を持ちながら働いている方は少なからずいるのですが、長野県民はそうした不安を持っている人の割合が少ないと感じています。

それは多分持ち家率の高さだったり、家族と一緒に住んでいたり、地域のコミュニティがしっかり存在しているといった地域性が関係しているんだと思います。

こうした未来への不安が少ないという県民性は、コロナ禍で会社の休業が多い時期でも大きな混乱なく乗り切れた要因の一つではないでしょうか。

-長野県民は生活基盤が最低限守られている方が多く、コロナ禍のような有事の際でも比較的落ち着いて対応した方が多いそうです。

Q5

長野県は他の地域の社員からも人気の場所だそうですね

長野県は自然環境が良く、スローライフとかワークライフバランスを考えると最高の場所です。

駒ヶ根工場の従業員も当初は他の場所からの転勤が半分、現地採用が半分でした。

その中で長野県は、都市部にいる社員にとっては大きな魅力を感じる、「ウケが良い」場所で、社員の異動を促しやすい場所だと思います。

駒ヶ根工場稼働時、他の地域の社員に「長野に転勤してほしい」と打診したところ、「長野ならいいよ」「行ってみたい」という方がいっぱいいました。

「自分の会社のために異動」というより「自分のための異動」ができるのは、この長野県という土地の持つブランド力でしょうね。

-移転や新設を考えている企業にとって、他の地域の社員が「行ってみたい」と思える魅力的な地である長野県は、企業の移転や新設の判断材料の一つになるのでは、とのことでした。

Q6

平和産業様は国や県、市から様々な行政支援を活用されたとお聞きしております。活用した行政支援についてお聞かせください

大きなもので言えば、県から「信州ものづくり産業応援助成金(現在の長野県産業投資応援助成金)」「企業立地促進法(現在の地域未来投資促進法)」をご支援いただきました。

特に県の「信州ものづくり産業応援助成金」が非常に大きくてですね、有難く活用いたしました。

その際に条件として「エコアクション21」の認証取得という条件があり、当時取得に苦労した記憶がありますが、今考えると現在企業としてESGが機能するなど得たものも大きかったのかなと思います。

-その他、国からは「ものづくり新展開支援補助金」「経営強化法による支援」「生産性向上特別措置法による支援」、駒ヶ根市からは「特定地域工場等設置事業」による固定資産税の補助、「生産性向上特別措置法」に基づく固定資産税特例による減免を活用されたそうです。

Q7

今後長野県の地でやってみたいことや目標についてお聞かせください

事業的な話で言えば、今後のメインフェーズは拡張ではなく今あるリソースの入れ替え、再構築を行って生産性を上げ成長していくことを目標にしています。

事業以外で言えば、水素ステーションの設置をしてみようと思っています。

実は僕は社内でコロナ禍を乗り超えたらTOYOTAさんの「MIRAI(FCV・燃料電池自動車)」を買うと宣言していますが、現在、長野県に一般に利用できる水素ステーションが無いんです。

弊社には合計1000キロワットの太陽光発電があるんですが、このメガソーラーと長野県に豊富にある水で1日約30~40台分くらいの水素が作れるんです。

じゃあこのメガソーラーと長野県の水を使って水素ステーションを作り、「エネルギーの地産地消」について勉強をしよう、と思っています。

-長野県においても都道府県として初めて「気候非常事態宣言」を行い、「2050ゼロカーボン」に向けた取組を進めています。令和3年4月からスタートする「産業投資応援助成金」でもZEBやRE 100などの環境規格の認証を受けたものは助成率が引き上げられますのでゼロカーボンに向けた取組を進める企業にとって長野県は絶好の立地候補となるはずです。